初心者データサイエンティストの備忘録

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【読書記録】極楽征夷大将軍

 直木賞を取ったという完全にミーハーな理由で『極楽征夷大将軍』を読んだ。感想文を書こうと思う。

 まず、長さに怯んだ。二段組で550ページ。この長さの本を読むのは久しぶりだった。しかも、読もうと思ったきっかけが直木賞を取ったという完全にミーハーな理由だったから、なおさらだった。

 しかし、読んでみたら面白い。昔、歴史の授業で教わった単語を物語として理解することができる。私はこれまで歴史物はあまり読んでこなかったが、これを機に入門しようと思う。本作は、足利尊氏・直義兄弟の物語なので、室町幕府の歴史全体を俯瞰できるような小説があったら飛びつくと思う。

 さて、本作を読んで私が感じたことは二つ。

 一つは、人間の人生のどうにもならなさである。自分の人生は、自分の力で切り拓いていけると人は考えがちだけれども、実際は周囲の人間関係や世の中のうねりに流されて、思うようにいかない。逆に、自分が力を入れなくても周囲に担ぎ出されて、実力以上の栄華を手にすることもある。

 本作の主人公、足利直義は前者で、尊氏は後者だと思う。また、人生において常にどちらかに属するということはなく、うつろい行くものなのだと思う。私の人生を振り返っても、努力したのに報われなかったこともあるし、大した努力もしていないのに、運が味方をしてくれたときもある。うまくいかないときは、ツキがまわってくるのを待つしかないと諦め、逆にうまくいっているときは調子に乗らないよう自分をいさめると良いのかもしれない。

 もう一つ感じたことは、なんだかんだいって足利尊氏は優秀だったということ。本作では、ポンコツとして描かれる場面が多かったが、尊氏は戦上手であった。また、直義の死後は精力的に政治活動に取り組み、全国の平定に尽力したなど、やはり歴史に名を残しただけのことはある。尊氏は全体を俯瞰して観ることに長けていた。本作ではこの能力が天賦の才として描かれている。正直、そのような能力を持って生まれた尊氏がうらやましい。

 一方で、弟の直義はというと本作では優秀そのものとして描かれている。物事を細分化し、それぞれをきっちり詰めていくことで物事を進めていく。尊氏とは真逆の能力であるが、こちらの能力もうらやましい。

 残念ながら、私には尊氏のような全体を俯瞰して観る力もなければ、直義のように細かいことまできっちり詰めていく力もない。そういった能力がある人が、世の中にはたくさんいるのだから、私のような凡人がなかなか思うように成果をあげられないことは仕方ない。能力を持った人に憧れと嫉妬を持ちながら生きていくしかないのだと思う。

 ここまで色々とネガティブなことも書き連ねてきたが、本作は良い意味で人生に脱力するきっかけを与えてくれた。普段はビジネス書や技術書ばかりを読んで、疲れを感じていたので、たまには小説を読むことも悪くないと思った。